Ｗｅｂ連載小説（１０９）【ユメの行方】ののしり合いはまるでコントのようだった

Ｗｅｂ連載小説（１０９）【ユメの行方】ののしり合いはまるでコントのようだった
　ｅｐｉｓｏｄｅ　１０９　　Ｍａｒｃｈ　１９８２　［ａｂｕｓｅ］作・桜井鉄太郎　「何だ、てめえ、タコ、この野郎！」　「ふざけんな、この、すかたん！」　「そっちこそ、ボケ、ぼうふら、ノミ！」　「シラミ、コラ、マキズメ、ナンコツ！」　「さむがり、耳鳴り、遠距離恋愛！」　「言いやがったな。俺の一番嫌いな言葉を！」　まるでガキ大将の口げんかのような富士壺伊右衛門と弟子丸雁太のののしり合いは、沖津卓也にとって、往年のマルクスブラザースのコントを見てるようで、そのぴったりの呼吸はそのまま漫才のチームが組めるほど、見とれてしまうほどだった。　「まあまあ２人とも落ち着いて！とにかく座ってビールでも飲みましょうよ」　沖津の、年若きころから水商売で鍛えられたその客あしらいのテクニックは、この２人の猛者さえもいとも簡単に沈静化させてしまった。　と、そこにオーナーの筑前修と日比野欽一、南音次郎、地鶏一郎ら麻布の重鎮たちが上機嫌で店に入ってきた。　「どうでした？　オーナー。ライブハウスの契約の段取りは？」　「おー、うまく事が運んだよ。最終的に足りなかった資金はヒビキンさんと音次郎さんの尽力で、スポンサーについてくれた加川誠さんからなんとか調達できたんだ。あのおてんばナギちゃんのオヤジさんだ。ついさっき賃貸契約を無事すませてきた。沖津、これから忙しくなるぞ」　「おい兄弟、じゃあコンサートのできる店を持つ計画は実現できそうなんだな？　そりゃあよかった！」　富士壺はいまやかけがえのない音楽のパートナーとなった筑前に近づき祝福のハグをした。が、そのとき…。＜続く＞［登場人物］沖津卓也（２２歳）：ｂａｒ　ｂｌｕｅ　ｒｏｓｅのマネージャー弟子丸雁太（３０歳）：　大日本お宝会の若頭、ロックマニア富士壺伊右衛門（３１歳）：富士壺組の親分。本当は気は優しい。美声の持ち主地鶏一郎（３０歳）：元グループサウンズのスター筑前修（３２歳）：カフェバーｂｌｕｅ　ｒｏｓｅのオーナー日比野欽一（４２歳）：元警視庁刑事。現ブローカー南音次郎（４０歳）：西麻布を取り仕切る音楽プロデューサー　　　　◇　１９８０年代初め、アートや文学、映像、そして音楽にポップなものが革命的に登場した。１９８１年に始まる日本のポップ／ロックシーンからクラブムーブメントまでの時代を実際に生きた青年、幾田トキオを主人公に描くのが、このドキュメントフィクション「ユメの行方」である。　物語の舞台はレコード業界と芸能界、それらを結ぶ西麻布の街。トキオに絡むのは、西麻布の街を変幻自在に闊歩したミュージシャンや業界関係者たち。いずれも個性的な面々だ。　執筆者は、来年、結成２０周年を迎える音楽ユニット「Ｃｏｓａ　Ｎｏｓｔｒａ（コーザ・ノストラ）」を始め、アイドルからクラブミュージック、アンダーグラウンドまでノンジャンルで手がけるミュージシャン・音楽プロデューサー。【バックナンバーはこちら】Ｗｅｂ連載小説【ユメの行方】
http://www.zakzak.co.jp/entertainment/movie_music/news/20100611/mov1006111304002-n1.htm
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