Ｗｅｂ連載小説（９７）【ユメの行方】ｂｌｕｅ ｒｏｓｅに残してきたナギが心配だ

Ｗｅｂ連載小説（９７）【ユメの行方】ｂｌｕｅ　ｒｏｓｅに残してきたナギが心配だ
　ｅｐｉｓｏｄｅ　９７　Ｄｅｃｅｍｂｅｒ　１９８１　［ｓｏｌｕｔｉｏｎ］作・桜井鉄太郎　「俺にもひとこと言わせてくれ」　春田義一が思い詰めたように手を挙げていった。　「お宝会の坂東のおっさんは、無理やり組をやめてミュージシャンになった俺を許してくれないんじゃないか？　それに若頭だって弟のように俺のことをかわいがってくれてはいたが、出所してきたらそれこそ恩知らずだと俺をボコボコにするんじゃ…」　「その心配はないと思うよ。たまに坂東のおっさんに会うと、いつも歌手になっていったあんたのことを案じてたし、塀の中の雁太さんも出所したら人気者になった義一とへべれけになるまで飲むんだと楽しみにしてたらしいからね」　先ほどまでの怒りの形相からは信じられないほど優しい表情になって筑前は義一に言った。ホッとした顔つきになって義一は今の自分の思いを一同に語り始めた。　「筑前さん、ヒビキンさん、音次郎さん、それにトキオくん。こんな俺だがこれからは性根入れてロック魂全開させるんでよろしくおたの申します」　あいかわらずヤクザっ気の抜けない決意ではあったが、あたたかく皆には迎えいれられたようだった。　「よし、じゃあ早速段取りしていこう。丸太社長、明日にでもお宝会の坂東さん呼んでお宅の事務所で物件契約の下打ち合わせをしましょう！」　日比野欽一はすっかりリーダーシップぶりを発揮してテキパキと話を先に進めていった。　「待ってくれ、ヒビキンさん。俺はまだ金の段取りがついてないんだが…」　「筑前さん、さっき俺に考えがあるって言っただろ？　心配しないでもいいって」　ヒビキンは自信満々に答えると、「そういえばｂｌｕｅ　ｒｏｓｅに残してきたナギが心配だ。店に戻りましょう」と皆を促した。　再びｂｌｕｅ　ｒｏｓｅに戻ると何やら入り口から生演奏らしき音が外まで漏れてきている。　中に足を踏み入れてみると…。＜続く＞［登場人物］幾田トキオ（２８歳）：Ｔｈｅ　Ｒｅｂｅｌ　を背負って立つ音楽プロデューサー日比野欽一（４２歳）：元警視庁刑事。現ブローカー南音次郎（４０歳）：西麻布を取り仕切る音楽プロデューサー矢ノ浦竜二（２６歳）：富士壺組の若い衆。天才的なドラマー筑前修（３２歳）：カフェバーｂｌｕｅ　ｒｏｓｅのオーナー古澤大樹（２８歳）：ロック・バンド　ファルコンズのボーカリスト。実は元ヤクザ者の春田義一丸太耕造（５９歳）：不動産屋「パルマ」の社長　◇　１９８０年代初め、アートや文学、映像、そして音楽にポップなものが革命的に登場した。１９８１年に始まる日本のポップ／ロックシーンからクラブムーブメントまでの時代を実際に生きた青年、幾田トキオを主人公に描くのが、このドキュメントフィクション「ユメの行方」である。　物語の舞台はレコード業界と芸能界、それらを結ぶ西麻布の街。トキオに絡むのは、西麻布の街を変幻自在に闊歩したミュージシャンや業界関係者たち。いずれも個性的な面々だ。　執筆者は、来年、結成２０周年を迎える音楽ユニット「Ｃｏｓａ　Ｎｏｓｔｒａ（コーザ・ノストラ）」を始め、アイドルからクラブミュージック、アンダーグラウンドまでノンジャンルで手がけるミュージシャン・音楽プロデューサー。【バックナンバーはこちら】Ｗｅｂ連載小説【ユメの行方】
http://www.zakzak.co.jp/entertainment/ent-column/news/20100519/enc1005191318000-n1.htm
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