Ｗｅｂ連載小説（１１２）【ユメの行方】雁太はぽかんと口を開けナギを凝視した

Ｗｅｂ連載小説（１１２）【ユメの行方】雁太はぽかんと口を開けナギを凝視した
　ｅｐｉｓｏｄｅ　１１２　Ｍａｒｃｈ　１９８２　［ｓｔａｒｅ］作・桜井鉄太郎　「おう！トキオクンとやら。やっと会えたなあ。義一とバンドやってるんだろ？　あいつがなかなか皆に紹介してくれなくてよお。俺が誰だかわかってるよなあ？」　幾田トキオの眼前３０センチのところまで顔をくっつけてきてドスを聞かせた声で弟子丸雁太は言った。　「もちろん存じていますよ。お宝会の頭、雁太さんでしょ？　いつも春田義一から、あなたのお人柄は聞いております。なんでもロックが大変お好きだとか」　ビビりながらも丁寧言葉でトキオは答える。　「そうかそうか、聞いてるか。そいつは話が早いぜ。あんたはレコードプロジューサーってのもやってるらしいじゃねえか」　「ジューサーじゃなくてデューサーですが」　「まあどっちでもいいや。俺のレコードを作ってはくれねえか、あんた」　「そう唐突に言われても…」　困惑したトキオは、ｂｌｕｅ　ｒｏｓｅの沖津卓也に目で合図して助けを求めたが、沖津は視線を合わせてくれない。麻布の重鎮たちも知らぬふりして会議を始めてしまった。　トキオは弱り切って言葉に詰まってしまったのだが、そこに意外な助け舟が登場した。　「あなたお宝会の頭でしょ？　素敵だわ。貫禄があって。噂には聞いてるわよ。あのロックの王様、郷田哲也の弟子なんですよね？」　なんとナギが雁太にぐんぐん近づいてきたのだ。雁太はぽかんと口を開けナギを凝視した。＜続く＞［登場人物］幾田トキオ（２８歳）：Ｔｈｅ　Ｒｅｂｅｌ　を背負って立つ音楽プロデューサー弟子丸雁太（３０歳）：大日本お宝会の若頭、ロックマニア加川渚（２２歳）：愛称ナギ。歌手志望の女子大生　麻布きっての魔性の女沖津卓也（２２歳）：ｂａｒ　ｂｌｕｅ　ｒｏｓｅのマネージャー　　　◇　１９８０年代初め、アートや文学、映像、そして音楽にポップなものが革命的に登場した。１９８１年に始まる日本のポップ／ロックシーンからクラブムーブメントまでの時代を実際に生きた青年、幾田トキオを主人公に描くのが、このドキュメントフィクション「ユメの行方」である。　物語の舞台はレコード業界と芸能界、それらを結ぶ西麻布の街。トキオに絡むのは、西麻布の街を変幻自在に闊歩したミュージシャンや業界関係者たち。いずれも個性的な面々だ。　執筆者は、来年、結成２０周年を迎える音楽ユニット「Ｃｏｓａ　Ｎｏｓｔｒａ（コーザ・ノストラ）」を始め、アイドルからクラブミュージック、アンダーグラウンドまでノンジャンルで手がけるミュージシャン・音楽プロデューサー。【バックナンバーはこちら】Ｗｅｂ連載小説【ユメの行方】
http://www.zakzak.co.jp/entertainment/ent-column/news/20100616/enc1006161302000-n1.htm
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